物理学の既修・未修の差を吸収するトレーニングベースコンテンツの開発

合林 亨† 市川 聡夫‡ 安仁屋 勝‡ 伊藤 喜久男‡ 太田 泰史† 松尾 大介* 宇佐川 毅†

†熊本大学総合情報基盤センター 〒860-8555 熊本市黒髪2丁目39-1
‡熊本大学理学部理学科 〒860-8555 熊本市黒髪2丁目39-1
*熊本大学大学院自然科学研究科 〒860-8555 熊本市黒髪2丁目39-1
E-mail:? †go@cc.kumamoto-u.ac.jp,? ‡{ichikawa, aniya, itoh}@gpo.kumamoto-u.ac.jp,
†ohta@cc.kumamoto-u.ac.jp,? *d-matsuo@st.eecs.kumamoto-u.ac.jp,? †tuie@cs.kumamoto-u.ac.jp

あらまし 熊本大学では,学生の高等学校での履修履歴や修得度のバラツキを吸収し,総合大学としての専門基礎科目の教育水準を高度化するための教育手法を構築することを目的とした「総合大学における理数系基礎教育のIT化?理数科目の既修・未修の差を吸収するトレーニングベースコンテンツの開発?」を進めている.この取り組みの1つとして,理学部の理学基盤科目である物理学TおよびUの講義で実施された小テストおよび演習問題をWebCT上で行えるテストコンテンツとして公開した.
キーワード WebCT,e-Learning,テスト,専門基礎,物理学

Development of training based contents that support both beginners and skilled students in Physics

Tohru GOUBAYASHI† Fusao ICHIKAWA‡ Masaru ANIYA‡ Kikuo ITOH‡ Yasushi OHTA† Daisuke MATSUO* and Tsuyoshi USAGAWA†

†Center for Multimedia and Information Technologies, Kumamoto University 39-1, Kurokami 2-chome, Kumamoto, 860-8555 Japan
‡Faculty of Science, Kumamoto University 39-1, Kurokami 2-chome, Kumamoto, 860-8555 Japan
*Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University 39-1, Kurokami 2-chome, Kumamoto, 860-8555 Japan
E-mail: †go@cc.kumamoto-u.ac.jp, ‡{ichikawa, aniya, itoh}@gpo.kumamoto-u.ac.jp,
†ohta@cc.kumamoto-u.ac.jp, *d-matsuo@st.eecs.kumamoto-u.ac.jp, †tuie@cs.kumamoto-u.ac.jp

Abstract In Kumamoto University, We carried forward the project “Making basic education of science and mathematics to IT at integrated university - Development of training based contents that support both beginners and skilled in Physics -“ It is because of reducing the gap of student’s master level and their career of finishing in their high school. And we construct the educational level in order to upgrade the educational level of professional basic subject. In this project, we opened the test content on WebCT. This test content is mini test and exercise that are executed in science basic subject Physics I and Physic II in Faculty of Science.
Keyword WebCT,e-Learning,Test,Professional basic subject,Psysics

1.はじめに

現在,熊本大学では理学部及び工学部の専門基礎教育において実施する数学及び理科分野のトレーニングベースe-Learningコンテンツを作成することで,学生の高等学校での履修履歴や修得度のバラツキを吸収し,総合大学としての専門基礎科目の教育水準を高度化するための教育手法を構築することを目的とした「総合大学における理数系基礎教育のIT化?理数科目の既修・未修の差を吸収するトレーニングベースコンテンツの開発?」を進めている.この取り組みの1つとして,2004年度後期から理学基盤科目である物理学T(前期開講)およびU(後期開講)の講義で実施された小テストおよび演習問題をWebCTの質問データベースに蓄積し,テストとしてコンテンツ公開を行った.

2.実践内容

物理学TおよびUの講義は既修者が2クラス,未修者が1クラスに分かれて同一のテキスト(高校の段階で物理を履修していない学生でも理解できるように書かれた平易なもの)で行なわれており,講義中に実施された小テストおよび演習問題(教員によって実施回数は異なる)をWebCTのコンテンツにした.今回は『成績には影響しない復習のための補助教材』という位置づけで学生に公開した.

2.1. 2004年度後期

2004年度後期はWebCTの質問データベースの構築とコンテンツの試験的公開を同時進行させるために次の作業を行った.

  2004年度後期
(物理学U)
2005年度前期
(物理学T)
形式 小テスト 演習問題 小テスト 演習問題
選択 69 0 75 0
整合 2 0 14 0
計算 6 0 9 0
短答 11 2 9 1
記述 0 147 0 184
88 149 107 185
合計 237 292
表1 質問データベースに入力した問題の数

小テスト1回目(2005年度前期実施)
図1 小テスト1回目(2005年度前期実施)

小テスト10回目(2005年度前期実施)
図2 小テスト10回目(2005年度前期実施)

なお,問題および解答の中の複雑な数式の入力は当初WebCTの数式エディタを用いていたが,Java Servletの動作が遅く作業に時間がかかったので,快適に動作するWordの数式エディタを用いて画像を作成してhtmlのimgタグで貼り付ける形式を採用した.

2.2 2005年度前期

本格的な公開の開始である2005年度前期は,2004年度後期で質問データベースに蓄積していた前期分(物理学T)の問題を次のような改善を行った上で公開した.

図3
図3 演習問題5の一部(2005年度前期実施)

図4
図4 補足資料『スカラー積(内積)』

利用状況と考察

3.1. 2004年度後期と2005年度前期の比較

2004年度後期,2005年度前期それぞれの学生のWebCT利用状況を表2,3に,またコンテンツページへのアクセス状況を図5に示す.

  総 計 既修者 未修者
受講者(人) 211 118 93
WebCT利用学生(人) 82 47 35
利用率(%) 38.9 39.8 37.6
表2 2004年度後期のWebCT利用状況

  総 計 既修者 未修者
受講者(人) 216 127 89
WebCT利用学生(人) 137 55 82
利用率(%) 63.4 43.3 92.1
表3 2005年度前期のWebCT利用状況

図5 コンテンツページへのアクセス状況
図5 コンテンツページへのアクセス状況

2004年度後期と2005年度前期の利用状況を比較すると,WebCTの利用学生の増加,特に未修者の利用が急増している.その要因として次のことが考えられる.

3.2. 2005年度前期の分析

先ずオンラインテストの利用状況について考察する.オンラインの小テストの実施状況を図6,7に示す.
これを見ると,最初は多くの学生が小テストを実施しているが早い段階で減少していき,第1章6節からは横ばい状態になっている.さらに詳しく履歴を調べると横ばい状態のところでは既修者も未修者も毎回決まった学生だけが実施していた.演習問題についてもほぼ同様な傾向が見られた.
このことから,多くの学生はオンラインテストの実施に価値を見いださなかったことが伺える.その要因としてはオンラインテストの結果が最終成績に一切加味されないことや,授業中に実施したテストとほぼ同じものをWebCT上で繰り返し学習する意欲が無いこと,さらに物理学は自分の手で計算などをすることが多いためパソコンで学習する必要性を感じていないことなどが考えられる.

図6 2005年度前期の小テスト実施状況(1)
図6 2005年度前期の小テスト実施状況(1)

図7 2005年度前期の小テスト実施状況(2)
図7 2005年度前期の小テスト実施状況(2)


次に公開資料(pdf化した小テスト)へのアクセス状況について考察する.未修者クラス担当教員が公開している資料へのアクセス状況を図8,9に示す.
図8を見ると,初回の小テストはアクセスが多いが2回目以降はほとんどアクセスが無い.オンラインテストの利用状況と併せ,初期の段階では「物珍しさ」もあって多くの学生がアクセスすることが判明した.初期(特に初回)にアクセスした多くの学生を次回以降もアクセスさせる工夫を加えることによって,継続的なアクセスを促すことも可能と考えられる.
また,図9を見ると,演習問題自体へのアクセスは少ないものの,解答例へのアクセスがかなり多いことが分かる.Q&Aにも多くのアクセスがあった.
このことから,WebCTは日頃の予習・復習への活用よりも試験対策として(のみ)利用されており,学生は問題の解答例やQ&Aに「テスト対策」のマテリアルとしての利用価値を見いだしていることが伺える. “テストの解答を手元に置くことで安心する”という学生を減らし,日頃の学習での利用を促進するためにも,資料の公開方法や周知のためのアナウンスにも工夫が必要なのではないかと考えられる.

図8 公開資料へのアクセス状況(1)
図8 公開資料へのアクセス状況(1)

図9 公開資料へのアクセス状況(2)
図9 公開資料へのアクセス状況(2)


最後に成績について考察する.2005年度前期の成績分布を図8に示す.未修者はほとんどの学生がWebCTを利用しているので「既修者でWebCTを利用していない学生」「既修者でWebCTを利用している学生」「未修者」の3グループに分類することができる.

図10 2005年度前期の成績分布
図10 2005年度前期の成績分布

これを見ると既修者はWebCTの利用の有無に関わらず「優」の学生が多く,成績の高い方に分布が偏っているが,未修者は「可」の学生が多く,成績の低い方に分布が偏っている.従って,このプロジェクトの目標である『既修・未修の差を吸収する』という点から考えると,既修者と未修者のギャップは埋まってないことは明らかである.
このようなことから,今回WebCTのコンテンツが未修者の学習の補助として有効に活用されたとは言い難い.

4.まとめと今後の展望

現在,2005年度後期用のコンテンツ作成において,新たに次のような作業を行っている.

さらに,テストの問題をランダムに表示させるために質問データベースへの問題の追加やシミュレーションプログラムの作成を検討しており,既修と未修の差を効率良く吸収するコンテンツの完成を目指している.
また,WebCTのコンテンツを物理学の効果的な補助教材とするための今後に向けての課題として以下の3点を検討している.



文 献

[1]合林,松尾:物理学のテストのWebコンテンツ化とWebCT入門の改訂,熊本大学総合情報基盤センター2004年度広報,2005.
[2]株式会社エミットジャパン,WebCT A to Z,2004-2005.