OpenSource LMS Moodleの紹介とくまもとインターネット市民塾市民塾における活用


村嶋, 吉田, 喜多, 松葉, 安浪, 福岡, 太田, 西, 古里, 中野, Moodleの市民塾における活用 -- くまもとインターネット市民塾 --, コンピュータ&エデュケーション No.19 (2005) より抜粋
本稿では、 OpenSource LMS として最近注目を集めているMoodleの紹介と、早い時期からその導入・活用を行って来たくまもとインターネット市民塾における活用事例を報告する。

Moodleについて

歴史と現状

Modular Object-Oriented Dynamic Learning Environmentの頭文字から作られた造語であるMoodle ( ムードル ) の開発は、オーストラリアのカーティン工科大学 ( Curtin University of Technology ) にウェブマスターおよびWebCTの管理者として勤務していたMartin Dougiamas氏による、有料のLMS (Learning Management System)・CMS (Course Management System) に代わる無料のシステムを提供したいとの考えから始まった。

直感的な使いやすさを開発の主眼としたMoodleの最初のバージョン1.0は、2002年8月20日にリリースされた。現在も「無料でシステムを提供したい」というMartin Dougiamas氏の考え方を元に、Moodleは継続的にGPL ( General Public License ) で提供されている。 バージョン1.0では、日本語等のマルチバイト文字を含む言語はサポートされず、英語を含む5ヶ国程度の言語ファイルが提供されていた。日本語の言語ファイルの作成およびマルチバイト文字への対応が吉田光宏により開始されたのが、2002年11月。現在、合計66の言語ファイルが提供さている。

Moodleの開発はCVS ( Concurrent Versions System ) により管理され、全世界に存在する開発者、言語ファイルの翻訳者等に適切な権限が与えられ、日々開発作業が続けられている。 Moodle公式サイト ( http://Moodle.org/ )に登録されている、日本のMoodleサイトは2005年8月現在、約70サイトである。登録されていないサイトも含めると実際には数多くのMoodleが日本国内で利用・試用されていると予想できる。Moodleの拡大は「GPLによるシステムの提供形態」「インストールの簡単さ」「直感的な使用感」が少なからず影響しているものと思われる。 Moodleでは、商用サポートサービスの質を低下させないため、各国で商標の登録を行っている。日本では2005年3月17日に、Moodleの商標が公開(国際登録番号838478)され、THE MOODLE TRUSTと正式にパートナーシップ契約を結んだMoodle Partnerのみが、公にMoodleのサポートに関する商用サービスを提供できるようになっている。

今後の課題として、世界各国の開発者によって制作された活動モジュール(小テスト、課題、リソース等)の操作感の統一、言語ファイルのUTF-8化、日本語等のマルチバイト文字に対する完全な文字化け対応が望まれる。

特徴

Moodleは、それ自身がオープンソース・ソフトウェアであると同時に、いくつかのオープンソースを中心としたソフトウェアと連携して稼動する。Webアプリケーションの開発によく利用されているオープンソースの汎用スクリプト言語であるPHP、オープンソース・データベースであるMySQLを中心とした多くのデータベース、世界中で広く利用されているオープンソースWebサーバであるApache等と連携して、LMSとしての非常に多くの機能を提供している。現バージョンであるバージョン1.5.2において、ほんの一部の機能ではあるがその概略を紹介する。

まず、メニューやヘルプメッセージであるが、そのほとんどが吉田光宏によって日本語に翻訳されている。特に日本語に関する追加インストール等は必要ない。

まず、テキストや画像を含む教材であるが、Webブラウザ上でありながら、図1に示すように、殆どワードプロセッサの感覚で編集可能である。表やハイパーリンクも非常に簡単に作成できる。また、プレインテキストや、ファイルのダウンロード、ハイパーリンク等によっても教材を提示することも可能である。


図1 テキストや画像を含む教材の編集画面

次に、テスト機能であるが、Moodleでは「小テスト」という名称で用意されており、多肢選択、○/×、記述、数値、計算、組み合わせ、説明、ランダム記述組み合わせ、穴埋め(Cloze)等の様々な形式が用意されている。例えば、穴埋め問題を利用すると、図2に示すような自由度の高い問題を作成することができる。


図2 テストの例

「小テスト」の他に、チャット、フォーラム(コース内だけの掲示板のようなもので議論や連絡等に利用できる)、レッスン、ワークショップ、投票、日誌、用語集、課題、調査、Wiki、Scorm、HotPotatoes等の機能がモジュールで提供されている。また、現在作成中のモジュールも多くあり、例えば当くまもとインターネット市民塾では、アンケート機能を提供するQuestionnairesモジュールを追加インストールして活用している。 また、ユーザの認証としては、現在、Emailベースの認証、IMAP、LDAP、NNTP、POP3、外部データベース、手動アカウント作成、外部データベース利用等に加えて、シングルサインオンの1つであるCASにも対応している。

その他、ここではとても紹介しきれないほどの機能が世界中の多くの貢献者の手で日々追加されている。

導入と運用

Moodle のインストールは、他のLAMP1環境でのWebアプリケーションと同様である。若干のデータベース操作等を前もって行い、パッケージファイルをダウンロードし、展開する。後は展開した Moodle にブラウザでアクセスして指示に従えばインストールが完了し、運用を始めることが出来る。また Windowsサーバ上でも MySQL、 PHP が動作していれば同様にインストールして使用できる。

アップグレードの際も、パッケージファイルを展開して上書きするだけである。次回、Moodle に管理者権限でログインした時に、必要な処理が自動的に行われ、アップグレードが完了する。

コースやサイト全体のバックアップも簡単に取ることができ、自動的に定期バックアップを行う機能も備わっている。画面構成のカスタマイズは、GUIベースで直感的に行うことができる。また、PHPプログラミングの知識があれば、独自カスタマイズ、独自モジュール作成も比較的容易である。オープンソースのeラーニングシステムとして卓越した完成度、豊富な機能、柔軟性を誰でも簡単に享受することができる。

市民塾への応用

便利な機能

Moodleは、元々、高等教育における利用を前提に設計・開発されたLMSであり、実際、ユーザの多くは大学等の高等教育機関が中心であるが、その多くの機能は、他の異なる教育環境においても有益であると考えられる。

ここでは、一般市民を対象とした生涯学習に対しMoodleを適用することを前提に、想定される利用形態や主要な機能の利用シーンを考察してみたい。

従来、地方公共団体や大学、民間教育機関などで一般の住民を対象に実施されている生涯学習講座では、その大半が、集合研修(スクーリング)方式によって開催され、開講日にあわせて教室に集まった学習者に対し、講師が説明を行ったり、実習や実技指導を行う形態を取ったりするものが多い。

この場合、次に挙げるような問題が考えられる。

では、Moodleを適用したオンデマンド型のeラーニングで生涯学習講座を開催する場合、どのような学習スタイルが実現できるのか、具体的に考えてみたい。

まず、受講者は、自宅や職場などからインターネットに接続されたPCを使い、自分の都合のよい時間に講座の学習サイトにログインする。学習者は、自身の前提知識と理解度に応じて学習を進めていく。Moodleでは、一般的なハイパーテキスト形式の教材やアニメーションや動画を使った教材を取り扱うことができる。「レッスン機能」を使えば、受講者の理解度や学習ニーズなどに応じたきめ細かな学習展開を組み立てることができる。また「オンラインテスト機能」を利用することで、受講者は自身の理解度を確認しながら学習を進められるだけでなく、講師は受講者の目標達成状況を一元的に把握することができる。一定の学習が完了した受講者には、Moodleの「課題機能」を利用して宿題のデータをアップロードしてもらう。講師は、個々の学習者の課題提出状況を一元管理し、個別のフォローやアドバイス、評価をWeb上で行う。学習中にわからないことや気づいたことがあれば、「フォーラム機能」を利用して質問をしたり教えあったりすることができる。また「チャット機能」を使うと、リアルタイムの情報交換や質問も可能である。これにより、自宅学習での孤独感から開放され、あたかも教室にいて学習するような一体感を得ることができる。 市民講座の参加対象や学習内容によっては、このようなeラーニング中心の学習形態に馴染まない場合もあるため、全てをMoodleによるeラーニングで置き換えることはできないが、知識修得のフェーズを中心にeラーニングを適用し、スクーリングも併用したブレンド型の学習形態をとるなど、運営方法を工夫することで、特に働き盛り世代の参加を促進することが期待できると考えられる。

Copyright Hiroshi Nakano et. al. 2005, All Rights Reserved