インタラクティブデモ&シミュレーション作成ツール
によるコンテンツ作成

合林    松田 英希   野口 千里   中野 裕司   北村 士朗   根本 淳子
喜多 敏博   杉谷 賢一   松葉 龍一   右田 雅裕   武藏 泰雄
入口 紀男   一隆   島本    木田    宇佐川

†熊本大学総合情報基盤センター 860-8555 熊本市黒髪2丁目39-1

E-mail:  {go, matsuda, noguchi, nakano, kit, nemoto, t-kita, sugitani, matsuba,
migita, musashi}@cc.kumamoto-u.ac.jp,  irig@kumamoto-u.ac.jp,
{kazu, masaru, tkida}@gpo.kumamoto-u.ac.jp,  tuie@cs.kumamoto-u.ac.jp

あらまし  熊本大学が実施している,学部生向け情報基礎教育や教職員向けコンピュータセキュリティ教育のeラーニングコンテンツとして,インタラクティブデモ&シミュレーション作成ツールを利用し,動画コンテンツを作成した.本稿では作成したコンテンツと学習効果を紹介する.

キーワード  WebCTe-LearningLMSCMSFlash,インタラクティブデモ,シミュレーション

Developping Effective e-Learning Contents
by the Interactive Demonstration and Simulation Tool

Tohru GOUBAYASHI   Hideki MATSUDA   Chisato NOGUCHI   Hiroshi NAKANO
Shirou KITAMURA
   Junko NEMOTO   Toshihiro KITA   Kenichi SUGITANI
Ryuichi MATSUBA   Masahiro MIGITA   Yasuo MUSASHI   Norio IRIGUCHI
Kazutaka TSUJI   Masaru SHIMAMOTO   Takeshi KIDA   and  Tsuyoshi USAGAWA

Center for Multimedia and Information Technologies, Kumamoto University
39-1, Kurokami 2-chome, Kumamoto, 860-8555 Japan

E-mail:  {go, matsuda, noguchi, nakano, kit, nemoto, t-kita, sugitani, matsuba,
migita, musashi}@cc.kumamoto-u.ac.jp,  irig@kumamoto-u.ac.jp,
{kazu, masaru, tkida}@gpo.kumamoto-u.ac.jp,  tuie@cs.kumamoto-u.ac.jp

Abstract  We made the effective animation contents for the courses of the computer literacy for university's students and the computer security for staffs by using the interactive demonstration and simulation tool. This paper shows the contents and their educational effects.

Keyword  WebCTe-LearningLMSCMSFlashinteractive demonstrationsimulation


1. はじめに

 

熊本大学では,学部,大学院教育だけでなく,教職員向けの様々な教育,啓発活動にWebCTを積極的に活用している.学部教育では,例えば,全学1年次生(1,800名あまり)を対象に,eラーニングと対面授業を併用した一般情報教育およびコンピュータリテラシー教育(科目名:情報基礎AB)を開講している.本講義では,全受講生が共通のテキストを利用して学習できるようにするために,講義用テキストはすべてWebCT上にeラーニングコンテンツとして公開・配布されている.講義用テキストをeラーニングコンテンツとして配布するメリットは,

 

(a) 場所(学校,自宅)と時間(講義内外,学年度)を選ばない学習が可能になること

(b) 多彩なメディアを教材として手軽に利用できること

 

などが挙げられる.我々は各回の講義内容(テーマ)を熟考した上で,テキスト文章,静止画,動画等の中から,最も学習効率の良いメディアを採用し,講義用コンテンツに盛り込むよう心がけている.

また,教職員向けには,情報セキュリティポリシーの制定に伴い必須となってきている,情報セキュリティ,コンピュータセキュリティ教育に関するコースを開設し,情報とコンピュータ管理の意識向上を図っている.同コースにおいては,教職員の学習に時間的な制約が多いことを考慮し,動画を多用したコンテンツを制作・提供することで,教育効果を狙っている.

総合情報基盤センター所属の教材作成室では,全学の情報教育やeラーニングコンテンツの作成補助作業を行っている.今回は当室で行った作業の中からMacromedia Captivateを用いて作成した動画コンテンツを紹介する.

 

2. Macromedia Captivate

 

Macromedia Captivateはアドビシステムズ社から販売されているインタラクティブデモ&シミュレーション作成ツールである[1]

以前は,動画コンテンツ(例えば,Flashメディア)の作成は,手間や時間,機材,ソフトウェアを扱うスキルが必要であったが,Macromedia Captivateを利用すると誰でも簡単に画面上の動作や操作を記録し,これらに音声やインタラクティビティ,アニメーションなどが備わった高品質なデモンストレーションやシミュレーションコンテンツを小ファイルサイズで仕上げることができる.

デモンストレーション(録画された画面操作)の作成では「マウスの軌跡」「マウスのクリック操作」「操作の説明文」「再生コントローラ」が,シミュレーション(インタラクティブなコンテンツ操作)の作成では「インタラクティブなホットスポット」「操作の要求

 

 

1 Captivate「読み込んだ映像の一覧画面」

 

2 Captivate「編集画面」

 

 

案内」「指導用フィードバック」「各種操作の集計/トラッキング機能」が自動的に生成される.さらにこれらをタイムテーブルに沿って配置・編集し,場合によっては解説やエフェクトを追加し,最後にFlash形式のファイルとして出力することにより完成品となる(図12).

 

3. コンテンツ作成事例

 

3.1. 情報基礎

 

WebCT上で開講されている2005年度後期の「情報基礎B」講義内の「WWWの仕組み」とWebページ作成の概略」で使用するための動画コンテンツを作成した.

前年度までは簡単な文章と静止画で説明していたこれらの部分について,「ブラウザとサーバの間の関係やHTMLを自動作成するプログラムが動作する様子を動きのあるもので理解できるようにして欲しい」という科目担当教員からの依頼を受け,動画コンテンツの作成に至った.検討段階ではアニメーションGIFで表現しようというプランもあったが,最終的に画面遷移や動作が滑らかで美しく仕上がるFlashコンテンツを作成することとした.

具体的には,「WWWの仕組み」では,Webページが表示される仕組み(ブラウザとサーバの間のアクション/リアクションの流れ)を説明する動画コンテンツをMacromedia CaptivateおよびMacromedia Flashで作成した(図3).また,「Webページ作成の概略」では,Webページには人間が作るものだけでなく,HTMLファイルを自動作成するプログラムなどにより作成されるものもあることを説明する部分の動画コンテンツ制作にMacromedia CaptivateおよびMacromedia Flashを使用した(図4).

 

 

3 Flashコンテンツ「WWWの仕組み」

 

 

 

4 Flashコンテンツ「Webページ自動作成の概略」

 

 

3.2. パソコンのセキュリティ設定をしよう!

 

平成174月に個人情報保護法が施行されたことに伴い,学内の非公開情報(個人情報)を保護するためにパソコンや当該ファイルのパスワードによる保護,データの暗号化等の必要最小限の対策方法を全学の教職員が学ぶ必要性が生まれた.当該対策の徹底と遵守を目的とした全教職員向けWebCTコース『パソコンのセキュリティ設定をしよう!』の制作および開講設置依頼を情報セキュリティの統括部門(総務部情報企画課)から受け,設定マニュアルに沿ったHTMLベースのeラーニングコンテンツを作成した.その際,Windows XP上での設定の説明にMacromedia Captivateで作成した動画コンテンツを使用した.具体的には,

 

 

(1) ログオン

(2) スクリーンセーバーの起動時からのパスワードによる復帰

(3) アプリケーション(WordExcel,一太郎)のパスワード設定

(4) Internet Explorerオートコンプリートのユーザ名及びパスワードの解除

(5) 外部媒体のセキュリティ設定

(6) フォルダやファイルの暗号化

 

のうち(5)以外の設定方法に関して,実際の設定操作画面を収録した動画コンテンツを作成し,公開している(図56).

 

 

5  Flashコンテンツ「対話型ログオンの無効化」

 

 

 

6 Flashコンテンツ「スクリーンセーバーの起動時からのパスワードによる復帰」

 

4. 効果

 

eラーニングでの学習に動画コンテンツを使用することで,次に挙げるような学習効果が期待できる.

 

(a) 視覚的効果による理解度の向上

(b) “手取り足取り”な説明による理解度の向上

 

「情報基礎」においては(a)の学習効果を期待した.概念の説明をテキストと静止画で行う場合は,言葉の選び方で伝わり方,解釈の仕方が変わることもあり得る.また,文字だけが大量に並んでいることに対しての抵抗感も考えられる.これに対し,動画を用いると直感的に分かりやすく理解しやすい上,学習者の興味も喚起できると考えた.本コンテンツを用いて授業を行った教員からは「この部分のコンテンツを学生が興味深く見ていた」といったフィードバックがあった.また学生は,サーバ側とローカル側の関係や全体像,およびそれらの仕組みを理解した上で演習や課題に取り組めるので,ファイルアップロード時の単純なミスなどが減少し,講義内容を正しく理解する上で非常に役立っていた.

「パソコンのセキュリティ設定をしよう!」の場合は(b)の学習効果を期待した.テキストと静止画の場合は,作業の流れを全て盛り込もうとするとテキストの分量が膨大になってページ数がかさんでしまうことがある.逆に必要な部分だけをピックアップして簡単と思われる部分の説明を省略してしまうと,その部分が初心者にとって実は重要な場合があり,学習者の混乱を招く恐れがある.しかし,動画を用いると1ページの,しかもパソコン画面に収まる範囲で全ての情報を盛り込むことができる.また早送り,巻き戻しのボタンや項目ごとに分けてジャンプできる機能を実装すれば,学習者のレベルに応じ必要な情報に素早くアクセスすることができ,学習の効率も上がると考えられる.

本コンテンツは教職員から「分かりやすい」「画像のみで各個人が確認(学習)できるようによくできている」と好評であった.さらに,音声を付加すればもっと分かりやすくなるのではという声もあった.また,本コンテンツで取り上げた各種設定の問い合わせ先である総務部・情報企画課に対して,設定手順等の問い合わせが公開前に比べて減少した.

 

5. 効果的活用法

 

Macromedia Captivateを用いて動画コンテンツを作成するにあたって,教材作成室内で形成的評価を行った.その結果得られた,効果的に内容を伝えるための代表的なポイントは以下の通りである.

     「画面が変わるとき」「行動を起こすとき」の説明を分かりやすくする.また分かるだろうと思って説明を省略しない.

     マウスポインタの移動,タイピングのスピード,画面や説明が切り替わるスピードを見る人がストレスに感じないようにする(早すぎず・遅すぎず,を心がける).

     再生コントローラを配置して,学習者が好きなところで停止,早送り,巻き戻しをできるようにする.

 

このように,とにかく動画コンテンツであれば良いというわけではなく,学習者の立場に立って,学習者が効率的に理解を深めるのにどうすればいいかを考えながら作成するのが,良いコンテンツを作成する秘訣である.また,文章と静止画によるコンテンツと動画コンテンツを併用することにより,さらなる学習効果も期待できる.

 

6. まとめ

 

本稿ではMacromedia Captivateを用いた動画コンテンツの作成事例を紹介した.Macromedia Captivateは初心者でも短時間で簡単にパソコン操作,ソフトウェア操作などのシミュレーションやデモンストレーションを作成することができる.また既存の動画を利用することによって,情報系の科目だけでなく,幅広い範囲の科目の教材作成にも対応できる.動画コンテンツは見せ方・作り方を工夫することで,テキストと静止画を用いたコンテンツの補助教材,またはそれ以上のものになり得る.教材作成室としては今後の動画コンテンツの作成にMacromedia Captivateを活用していきたいと考えている.

 

 

  

[1]    Macromedia Captivate
http://www.adobe.com/jp/products/captivate/