情報システム利用状況の概観

久保田 真一郎, 辻 一隆, 島本 勝, 木田 健, 杉谷 賢一
総合情報基盤センター

はじめに

近年,Webベースの学習管理システム(LMS)を利用する講義が増えており, 情報科学に関する講義に限らず,授業でパソコン実習室を利用する講義が 増えている.それに併せて100名に及ぶ多人数講義に対応するための 大規模なパソコン実習室が整備されるようになった. たとえば,熊本大学では表1にあるように 設置台数が50台を超えるパソコン実習室が12部屋(図書館中央館を除く)あり, そのうち設置台数が100台を超えるパソコン実習室は4部屋ある.

表: 熊本大学における教育用パソコンの設置台数
学部および部局 教室名 設置台数
総合情報基盤センター 実習室I 97
実習室I I 57
工学部 911教室 109
理学部 計算機室 41
大教センター A302 61
B301 61
B302 61
A401 20
A402 20
A403 20
A404 31
A405 31
A406 69
A407 53
A408 53
B401 105
図書館中央館 館内各所 89
医学部 情報教育実習室 106
医学部図書分館内各所 13
医学部保健学科 A204 49
B201 33
保健学科図書室 4
薬学部 パソコン実習室 101
薬学部図書館分館内各所 10

今後,LMSの学習コンテンツを使った自習利用による 講義時間外の教育用パソコンの利用率が増加すると考えられる. この報告では, ユーザ利用に関するログデータを収集し,その収集したログデータを もとにユーザの利用動向について解析した結果を報告する.

メールシステムを利用したログイン情報の収集

各教育用パソコンにユーザがログオンすると 同時にその日時,ユーザIDおよび端末名を含むメールが 情報収集のためのサーバ (以下,「管理サーバ」と呼ぶ)に送信される. 管理サーバに情報を送信する常駐プログラムによっても 同じ機能またはそれ以上の機能を持たせることが可能であるが, 独自プログラムゆえに入手や 対応した管理サーバの構築が容易でないため, 導入までの困難が予想される. しかし,メールシステムを用いた場合には 各教育用パソコンではログオン時のスクリプトに メールを送信する記述を加え, 管理サーバ側はメールを受けることができればよい. このためパソコン管理が必要な多くの組織において 容易に構築が可能である.

熊本大学における教育用パソコンは Windows XP Professional(以下,Windows)と Vine Linuxとのデュアルブート構成である. 以下では特にWindows環境の場合について説明する. 各ユーザには移動プロファイルによりWindowsの環境を提供している. このログオンスクリプトに 図1のように メールを送信する記述を追加する. このように教育用パソコンのログオンスクリプトに記述することで 管理サーバの管理IDのメールスプールには ログオンのサイン「@@@」を 本文の先頭に含むメールが蓄積される.このファイルを 10分ごとにスクリプト処理し,1日分のログデータを 1つのファイルとして保存している.

ここでは seemitCUI001.exe という情報基礎教育用メールソフト 「Seemit」 [1,2] のCUIプログラムを 用いてメールの送信を行っている.オプションの「-s」により ユーザIDを指定し,その後の引数「管理者ID@管理サーバ」 には宛先メールアドレスを指定する. 「Seemit」はフリーで配布されており誰でも利用できる. また,これに限らずコマンド入力で送信可能な メールソフトを利用して同様のことが可能である.

上図: ログオンスクリプト内の記述
下図: 学部の現員数とその割合および教育用パソコンの述べ利用者数とその割合
\begin{figure*}\begin{screen}
\begin{verbatim}set HEAD=@@@
echo %HEAD% %DATE% ...
...11.20& 9.84& 21.00& 6.04& 30.05\\
\hline
\end{tabular}\end{center}\end{figure*}

2007年度のログデータの解析

2007年4月1日から2008年3月31日までのログデータを用いて, 利用者IDから学部別のべ利用者数を調べた. 学部の現員数とその割合および教育用パソコンののべ利用者数とその割合を 図2に示す.学部生に限ると1年間の のべログイン回数が436429回であった. 全パソコン台数が1294台であるので, 1年間で1台あたり337回ログインされる計算になる. つまり,1日に0.92回はログインされていることになる. 現員数の各学部の割合とのべ利用者数の各学部の割合が 近い値を示していることから 各学部の利用頻度に大きな差がないことが理解できる.

次に,入学年度別に各学部ののべ利用者数を考察した.その結果を 図3,図4に示す.

3は各入学年度学生の学部別教育用パソコン利用者数 のパーセントグラフを示しており,2007年度入学者は現員の割合と近い 値を示している.これは 全学部1年生を対象とした「情報基礎」という 情報リテラシー科目があり, すべての1年生が1年を通して利用するためだと考えられる. 工学部と教育学部はなだらかにその幅が細り, 理学部と文学部はその幅に大きな変化はなく, 医学部,法学部はその幅が大きく拡がっている. 帯の幅が割合を示しているので,工学部と教育学部は 学年があがるほど教育用パソコンを利用する頻度が 減少していることを示している.工学部の学生は パソコンに関心のある学生は個人のパソコンを利用する場合や 研究室に準備されているパソコンを利用する場合が考えられ, 教育用パソコンを利用する割合が低下すると予想できる. 医学部は,図4を見るとその幅に変化はなく, のべ利用者数は大きく変化していないことがわかる.つまり, 他の学部が利用しなくなったために,利用率で上位を占めるに 至った思われる. 図4は積み上げグラフで,横軸は各入学年度を示し,縦軸に のべ利用者数を示す.各色で学部が区別され,その幅はのべ利用者数を 示している. 2007年度入学者の利用が明らかに多いのは,「情報基礎」が要因だと思われる. 2006年度入学者ののべ利用者数は 2007年度入学者の約半分であり,このことから2年生になると利用する機会が 極端に減少する傾向があることがわかる.また,この傾向は3年,4年と学年が あがる毎に減少する傾向がある.研究室には利用パソコンが準備されている場合 が多く,研究室に所属する4年生の利用が減少するのは理解できる. しかし,2年、3年と利用頻度が減少する点については,1年生で学んだ 情報を活用する技術が本来必要となる4年生となったときに 利用できる状態にあるのかという教育面での心配が残る.

今後も,同様のログデータをもとにユーザの動向を調べることで, ユーザのニーズを認識し,教育用パソコンの環境充実に役立てたいと思う. また,高等教育における情報技術教育の質向上にも活かしていきたい.

図: 入学年度に対するのべ利用者数の学部別パーセントグラフ
\includegraphics[width=30zw]{percent.eps}
図: 入学年度に対するのべ利用者数の学部別積み上げグラフ
\includegraphics[width=30zw]{tsumiage.eps}


文献目録

1
喜多敏博, 宮崎誠, 中野裕司, 杉谷賢一, 秋山秀典, 電子メールソフトSeemitの開発と情報基礎教育での活用, 電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌), Vol.126, No.7, pp.623-628, 2006.

2
Seemitのホームページ
http://seemit.info