全学向け情報教育の近況報告


メディア情報処理研究部門
右田 雅裕
migita@cc.kumamoto-u.ac.jp

1 はじめに

熊本大学では,平成14年度より全1年生を対象に情報分野における基礎的な知識と技能の習得を目標とした教育体制を継続的に実践している. この情報基礎演習科目は全1年生を対象に「情報基礎A・B」として開講され,総合情報基盤センターが主体となり実施している. 本学におけるこの取り組みは「学習と社会に扉を開く全学共通情報基礎教育」として平成16年度「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)に採択され,平成19年度はその最終年度を迎えた.

本学における全学向け情報教育の近況について報告する.

2 情報基礎A・B

情報基礎A・Bは,本学の全1年生を対象にそれぞれ前学期及び後学期に開講される情報基礎演習科目である. 情報基礎A・Bでは,平成15年度前学期よりLMS(Learning Management System)としてWebCTが導入されており,テキスト(独自に作成したオンラインコンテンツ)の提示や課題の提出,確認テスト(オンラインテスト)等に活用されている. 平成19年度は,「情報基礎A」が26クラス約1830名の受講者で,「情報基礎B」が26クラス約1850名の受講者で構成され,それぞれ11名及び12名の教員(ともに内非常勤3名)が講義を担当した.

当センターは各部局のPC実習室に設置されたPC約1330台の保守管理を主体となり実施しているが,情報基礎A・Bの講義もこれらのPC実習室を利用して行われている. 平成19年度は,当センターが運用する全学計算機システムの更新後本格運用を開始する初年度であったが,情報基礎A・Bに関しても通年にわたり特に大きな障害もなく実施された.

3 確認テスト

情報基礎A・Bでは,各講義に関連した内容の確認を受講者に促すため,各講義回ごとに確認テストと呼ばれるオンラインテストが実施されている. 各回の確認テストは講義開始60分後から受験できるようになり,その後約1週間の実施期間中は何回でも受験可能となるオープンな条件の下で実施されるオンラインテストである. 受講者は納得いくまで何回も確認テストを受験することができるが,これは24時間アクセス可能なLMSを利用したeラーニングならではの特長と考えられる. 各テストの実施期間中に取得した得点のうち最高点がそのテストの得点として扱われ,確認テストの得点は情報基礎A・Bの成績評価にも組み込まれている.

3.1 情報基礎Aの実施結果

平成19年度の情報基礎Aで行われた確認テストの実施結果を以下に示す.

情報基礎Aにおける確認テストの平均点を図1に示す. 図1において,横軸は各回の確認テストを,縦軸は全受講者の平均点を表す. 確認テストは実施期間中であれば複数回受験可能であることから,青の系列は各テスト初回受験時の得点を,また,赤の系列は各テストにおける最高点(最終的な得点)を示す.各回の平均点は,受講者による複数回受験の結果,青の点数から赤の点数へと移行している. したがって,全回の平均点に着目すると,初回54.4点だった平均点が最終的に93.1点へと向上している.

平成19年度情報基礎Aの確認テストにおける各回の平均点
図1 平成19年度情報基礎Aの確認テストにおける各回の平均点

確認テスト各回の平均受験回数を図2に示す. 図2において,横軸は各回の確認テストを,縦軸は全受講者の平均受験回数を表す. 青の系列は最高点取得時の受験回(最高点の取得は何回目の受験であったか)を,また,赤の系列は最終的な受験回数を示す. 全回の平均受験回数に着目すると,最高点取得時の平均受験回が5.6回目であるのに対し,受講者は最終的に平均6.1回受験している.

平成19年度情報基礎Aの確認テストにおける各回の平均受験回数
図2 平成19年度情報基礎Aの確認テストにおける各回の平均受験回数

確認テストの得点分布の一例を図3〜図4に示す. 図3〜図4において,横軸は各得点範囲(x点以上,x+10点未満)を,縦軸は受講者数を表す. 青の系列は各テスト初回受験時の得点を,また,赤の系列は各テストにおける最高点(最終的な得点)を示す.したがって,各得点範囲の受講者数は,図1の場合と同様,受講者による複数回受験の結果,青の人数から赤の人数へと移行している.

平成19年度情報基礎Aの第7週確認テストにおける得点分布 平成19年度情報基礎Aの第10週確認テストにおける得点分布
図3 平成19年度情報基礎Aの第7週確認テストにおける得点分布 図4 平成19年度情報基礎Aの第10週確認テストにおける得点分布

3.2 情報基礎Bの実施結果

平成19年度の情報基礎Bで行われた確認テストの実施結果を以下の図5〜図8に示す.

平成19年度情報基礎Bの確認テストにおける各回の平均点
図5 平成19年度情報基礎Bの確認テストにおける各回の平均点

平成19年度情報基礎Bの確認テストにおける各回の平均受験回数
図6 平成19年度情報基礎Bの確認テストにおける各回の平均受験回数

平成19年度情報基礎Bの第7週確認テストにおける得点分布 平成19年度情報基礎Bの第12週確認テストにおける得点分布
図7 平成19年度情報基礎Bの第7週確認テストにおける得点分布 図8 平成19年度情報基礎Bの第12週確認テストにおける得点分布

図5における全回の平均点に着目すると,初回57.6点だった平均点が最終的に89.7点へと向上しており,また,図6における全回の平均受験回数に着目すると,最高点取得時の平均受験回が5.0回目であるのに対し,受講者は最終的に平均5.5回受験している.

4 まとめ

情報基礎A・Bにおける確認テストの実施結果から,特に成績(得点)に着目した場合,平均点が初回得点に比べて最終的に30点(情報基礎Aの場合は38点)以上向上しており,確認テストは講義終了後の学習の機会拡大に貢献していると考えられる. 確認テストの受験回数についても,最終的な受験回数の平均が最高点を取得した平均受験回を上回っており,成績の場合と同様のことがいえると考えられる. また,確認テストの得点分布からは,その遷移状況から大半の受講者が最終的に初回受験時より上位の得点を取得して各回の講義を終了していることが分かり,多くの受講者が一定水準の理解に達していると考えられる.