2009年度eラーニング連続セミナーについて

ネットコミュニケーション研究部門
久保田真一郎

はじめに

2005年4月から始まったeラーニング連続セミナーは,国内外の著名なeラーニン
グに関する専門家を招き,開催されている.本報告では,2009年度に行われた
第16回「eラーニングにおける学習持続」,第17回「eラーニングと生涯学習」
の連続セミナーについて報告する.

第16回eラーニング連続セミナー

「eラーニングにおける学習持続」というテーマで2009年5月12日に
熊本大学大学教育機能開発総合研究センター多目的会議室で開催された.
「Elemental Learning, Virtual Reality, and Digital Games
(基礎学習とバーチャルリアリティ、デジタルゲーム)」というタイトルで
Jack Dempsey教授,「Using self-regulated learning skills to enhance elearning
(eラーニング学習効果を高める自己管理型学習能力)」
というタイトルでBrenda Litchfield 教授にご講演いただいた.

Jack Dempsey教授は学習デザインのfidelityは学習分析と学習評価の両方が
ポイントであり,学習成果物の関係性を分類する学習分析はその利点を持つが
形式的な分析は容易でないとし,最良と考える実践例からmeaningful assessment
を抽出することになると展開された.そのassessmentが学習成果物を生成し,
その学習成果物のfidelityにより学習活動に価値が生まれる反復プロセスについて
解説があった.また,elemental learningとsynthetic learningにおいて
特に考えることができるとし,ゲームやバーチャルリアリティを用いた事例につ
いて紹介があった.

Brenda Litchfield 教授は「旅行へ出かける前に何をしますか?」というシンプルな
問いから,旅行の前に計画を立てるように,学習にも計画を立てましょうという
導入から始まり,様々な分野の博士課程学生や研究者が利用できるSelf-Regulated
Learning について解説が展開された.

第17回eラーニング連続セミナー

「eラーニングと生涯学習」というテーマで2009年7月14日に熊本大学
くすの木会館レセプションルームにおいて開催された.講師には,
富山大学総合情報処理センター長,評議員,教育学部長,理事・副学長(教育)
を歴任され,学外活動には富山インターネット市民塾理事長としてご活躍の
山西 潤一氏と「富山インターネット市民塾」設立の立役者である
柵 富雄氏をお招きし,講演いただいた.両氏とも現在も最大規模である
「富山インターネット市民塾」の話を中心にこれまで10年間の経緯や経験に
ついてお話いただいた.論文や報告などでは出てこない話題が多く,多くの聴衆の
関心を引きつけていた.

山西教授から「インターネット市民塾にみる学びの共同体」というタイトルで
ご講演いただいた.オンラインの学習コンテンツや実際のフィールドを利用した
講座を開講されている市民の方の話やそれを受講する受講者の話などを中心に
話が展開され,インターネットでつながりを作り交流の場をいかに構成するか
学習システムをご紹介いただいた.質疑応答では,「公民館などで行われる
市民講座とインターネット市民塾で行う講座とのすみわけ」について質問があり,
富山県が中心に行う講座は専門家による講座であり,富山インターネット市
民塾の講座は専門家も専門家でない人も講師となることができる点で異なるという
説明があった.ソーシャルラーニングというキーワードの奥深さを感じた質疑
だった.


柵氏から「インターネット市民塾で展開される生涯学習」というタイトルで
ご講演いただいた.
「交流の中にも学びがある」「教えたり教えられたり」などのキーワードともに
富山インターネット市民塾の講座について解説いただいた.
後半は実際のサイトをもとに話が展開された.中でも,身元を開かして
活動を行うことが特徴である点について解説いただいた.質疑では,
身元を明かして活動することの利点や信頼関係,不安などについて議論が
集中した.