計算機援用教育部門活動報告

准教授 永井孝幸,  教授 中野裕司

部門ホームページ:http://www.cc.kumamoto-u.ac.jp/cae

はじめに

計算機援用教育研究部門ではマルチメディア環境を活用した教育・研究システムの研究開発を行っています2009年度の活動では、講義ビデオの収録・分析システム、virtual laboratorye-learning教材、電子ポートフォリオ、大学ポータルに関する研究開発を行いました。以下、各活動について簡単に紹介をしたいと思います。

活動紹介

(1)  講義ビデオ収録・分析システムに関する研究開発

近年、OpenCourseWareiTunes で知られるように、講義の復習や遠隔学習者の支援、大学の知の開放の一環として、大学の講義を収録・配信する取り組みが盛んになってきました。しかしながら、撮影・編集に必要な機材・人手・コストの問題から、日常の教育活動として広く普及するには至っていません。特に、講義を収録する撮影スタッフの確保が大きな壁になります。

収録時のカメラ操作が不要な簡易な講義収録方式として,固定ハイビジョンカメラと仮想カメラワークを用いた方式が知られています。この方式と自動収録システムを組み合わせることで大規模な講義収録が可能になると考えられますが,既存の自動収録システムの多くはハイビジョン撮影に対応していません。そこで,市販のHDD録画型フルハイビジョンカメラと小型サーバを組み合わせた低コストな講義自動撮影加工システムを開発し、当センター内での運用を開始しました(1,2)

 

1 開発した講義ビデオ自動収録システム(センター演習室に設置)

図2 ハイビジョンカメラにより自動収録した講義ビデオ

eラーニング教材を自動生成する試みの一環として、講師PCの映像出力からマウスカーソルの動き、文字情報などを抽出する手法について検討を行いました。近年一般的になったHDMI,DVI等のデジタル映像出力では劣化のない画像データが取得できることから、精度の高い画像認識が可能になると考えられます。本年度は講師PCのデジタル映像出力から取得した講義スライド画像に対するOCR処理をテンプレートマッチング法を用いて実装し、一定の条件下で英数字ならびに漢字の読取りが可能であることを確認しました。

(2)Virtual laboratoryに関する研究開発

一般に、技術者教育では講義と実験・演習を組み合わせることで効果的な教育を行っています。eラーニングにおいても同様の学習環境を実現することが望まれますが、キャンパスに通うことのできない学習者にとって自力で実験・演習環境を準備することは容易ではありません。そのため、教材だけでなく、実験室・演習室の環境も合わせてオンラインで提供することが求められています。

我々の研究グループではVMWare,Xenに代表される仮想化技術を利用し、遠隔地からネットワーク演習を行うための仮想ネットワーク演習環境NVLabの開発を行っています。学習者はWebブラウザを通じてNVLabにアクセスし、仮想ネットワークの構築・仮想サーバの設定を行うことができます。実際の機材を用いてネットワーク構築の練習を行うにはルータ・ブリッジ・サーバなど複数の機材が必要になりますが、NVLabでは仮想化技術を用いることにより、1台の物理サーバを設置するだけでネットワーク演習を実施することが可能です。

(3)e-learning教材に関する研究開発

e-learningには自分のペースで自分の興味に合わせて学習を進められるというメリットがありますが、学習者個別のニーズに対応した教材の開発には多大な労力を要します。また、LMS(Learning Management System)固有の機能を用いて作られた教材は他のLMSで利用することができません。教材の再利用によって生産性を上げ、さらにはコミュニティによる教材の継続的な改善を可能にするため、SCORM等の標準規格に準拠した教材を作成することが望まれています。

上記の問題への取り組みとして、学習者が入力したキーワードをもとに練習文を生成するタイプ練習ソフトをSCORM準拠の教材として開発しました(3)。従来のタイプ練習ソフトでは練習文が固定されていますが、開発したタイプ練習ソフトでは入力されたキーワードを元にGoogle, Wikipedia等のインターネット上のリソースから動的に問題文を生成します。キーボード表示などのGUI部分についてもHTML5Canvasを用いることで外部プラグインに依存しない実装となっています。実際にMoodle,WebCTの両LMSにおいて本タイプ練習ソフトが動作することを確認しています。HTML5対応ブラウザの普及に伴い、パソコン以外の情報機器でも本ソフトが広く利用されると期待されます。

3 開発したSCORM準拠タイピングツールの画面と全体像

(4)大学ポータルに関する研究開発

本研究部門では熊本大学における学習環境の高度情報化実現に向け、大学ポータルに関する研究開発を行っています。学生向けの情報システムとして履修管理システム(SOSEKI)LMS (WebCT, Moodle, Sakai)CALLをはじめとして複数のシステムが存在しますが、Web技術を用いてこれらのシステムを連携させ、学生にとって必要な情報を一つの窓口で入手できるようにすることが目標です。

本年度は大学ポータル上で運用してきた時間割ポートレットに改良を加え、履修情報・成績情報・LMSの窓口を統一しました。