計算機援用教育部門活動報告
准教授 永井孝幸, 教授 中野裕司
部門ホームページ:http://www.cc.kumamoto-u.ac.jp/cae
計算機援用教育研究部門ではマルチメディア環境を活用した教育・研究システムの研究開発を行っています。2010年度の活動では、講義ビデオの収録・分析システム、virtual laboratory、e-learning教材、電子ポートフォリオに関する研究開発を行いました。以下、各活動について簡単に紹介をしたいと思います。
活動紹介
(1) 講義ビデオ収録・分析システムに関する研究開発
近年、OpenCourseWareやiTunes で知られるように、講義の復習や遠隔学習者の支援、大学の知の開放の一環として、大学の講義を収録・配信する取り組みが盛んになってきました。しかしながら、撮影・編集に必要な機材・人手・コストの問題から、日常の教育活動として広く普及するには至っていません。特に、講義を収録する撮影スタッフの確保が大きな壁になります。
そこで,市販のHDD録画型フルハイビジョンカメラと小型サーバを組み合わせた低コストな講義自動撮影加工システムを開発し、当センター内での運用実験を行っています (図1)。
図1 開発した講義ビデオ自動収録システム(センター演習室に設置)
図2 講義ビデオ自動収録ユニット費用打ち合わせ
この自動収録システムの設計にあたっては、導入が容易になるよう市販機材を用いた低コストな構成になることを目指しました。最終的には1セット20万円以下の費用で自動収録ユニットを構築し(図2)、1年間にわたり日常運用が可能であることを実証しました。
2010年度後半にはこのシステムをさらに発展させ、遠隔自動収録・配信機能を実装しました。これまでは講義の自動収録ユニット・ビデオ加工サーバ・配信サーバを全て総合情報基盤センター内に撮影していましたが、遠隔地での講義自動収録を実現可能にするために自動収録ユニットとビデオ加工サーバを地理的に分散して配置可能としました(図3)。ファイアウォールを超えたビデオ素材の受け渡しに必要なデータ中継サーバの実装、収録スケジュール共有機能などが主な改良点になります。このシステムを実際に熊本-鳥取間の遠隔講義収録に適用し、約200講義の自動収録を実施しました。
図3 遠隔講義自動収録システムの構成
講義ビデオの収録を幅広く行うにあたっては、著作権・肖像権にも留意する必要があります。そこで、顔認識技術を用いて講義ビデオ中に映りこんだ学生の顔情報を保護するための手法についても研究を行っています(図4)。近年、OpenCV等のオープンソースの画像処理ライブラリを用いて顔認識を行うことが容易になりつつありますが、実際の講義ビデオに適用するには認識精度・処理速度の面で多くの課題があることが分かりました。講義ビデオ映像への適用に適した手法の検討を継続して行っていく予定です。
図4 学生の顔を保護したビデオの例
(2)Virtual laboratoryに関する研究開発
一般に、技術者教育では講義と実験・演習を組み合わせることで効果的な教育を行っています。eラーニングにおいても同様の学習環境を実現することが望まれますが、キャンパスに通うことのできない学習者にとって自力で実験・演習環境を準備することは容易ではありません。そのため、教材だけでなく、実験室・演習室の環境も合わせてオンラインで提供することが求められています。
我々の研究グループではVMWare,Xenに代表される仮想化技術を利用し、遠隔地からネットワーク演習を行うための仮想ネットワーク演習環境NVLabの開発を行っています。学習者はWebブラウザを通じてNVLabにアクセスし、仮想ネットワークの構築・仮想サーバの設定を行うことができます(図5)。実際の機材を用いてネットワーク構築の練習を行うにはルータ・ブリッジ・サーバなど複数の機材が必要になりますが、NVLabでは仮想化技術を用いることにより、1台の物理サーバを設置するだけでネットワーク演習を実施することが可能です。
NVLabは単体でもネットワーク演習環境として用いることができますが、LMS(Learning Management System)上の教材と連携させることができれば更に教育効果を高められると考えられます。そこで、オープンソースの代表的なLMSであるSakai CLEのWebサービス機能を利用し、LMSとの連携機能を実装しました。これによりLMS上のツールの1つとしてNVLabを呼び出すことが可能となり、複数の科目でNVLabを共有することが可能になりました。Googleカレンダーと連携させることで、サーバの利用時間帯を予約する機能も実現しています。
図5 NVLabシステム構成
図6 NVLabとSakai CLEの連携
(3)e-learning教材に関する研究開発
理数系の学習コンテンツでは微積分などの動的な数式処理や関数のグラフ表示などは学習内容の理解を助けると考えられます。しかし、動的な数式処理を行うには専用の処理ソフトが必要であることや、Webブラウザ上で数式やグラフ表示を行うことが困難であったことから、動的な数式処理を取り入れた学習コンテンツは少ないのが現状です。
そこで本研究では、オープンソースの数式処理ソフトMaximaとAjax,HTML5の技術を組み合わせることで、HTMLコンテンツから動的な数式処理・グラフ描画を利用できるようにしました。オープンソース数式処理システムのMaximaを数式処理・グラフ描画エンジンとし、その機能をクロスドメインでクライアントから呼び出せるWebAPIをJSONP形式で実装しています。本APIを用いることで、学習コンテンツが他のサーバ(LMS等)にあっても、またたとえファイルとして読み込んだとしても、インターネット接続さえあれば全ての機能が利用できることが特徴です。
図7 システム構成
Web上の入力フォームと組み合わせることで、図8のように動的な処理とグラフ描画を実現することができます。
図8 動的な数式入力とグラフ描画の例
(5)電子ポートフォリオに関する研究開発
孤独な学習に陥りがちな e ラーニングで学ぶには,学習進捗や到達目標への達成度の提示,教師と生徒間や生徒同士のコミュニケーション支援が重要です。熊本大学大学院教授システム学専攻ではこれらの支援を実現するために「専攻ポータル」を実装し,Sakai CLE (Collaboration and Learning Environment) による「学習ポートフォリオ」を構築・運営してきました。
現在,本システムの高度化および次期学習ポートフォリオシステムの構築を目的に,Sakai CLE が備える e ポートフォリオツール群である OSP (Open Source Portfolio) の Matrices ツールを使って学習ポートフォリオの再設計を試みています。本年度の活動では,開発したeポートフォリオシステムと別システムであるLMS(BbLS CE6.0)の連携機能を実装し,学習成果物を自動的にe ポートフォリオシステムへ取得・蓄積し,コンピテンシー単位で整理することを実現しました(図9).
図5 LMS(BbLS CE6)とと学習ポートフォリオ(Sakai)の連携