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世界的に見ると、eラーニングはまず、遠隔教育として注目を浴び、バーチャル ユニバシティの取り組みも数多く行われた。オンライン専門の大学で成功した所 はそう多くはなかったが、その過程でeラーニングの教育的な効果が認識され、 対面(面接)授業にうまく取り入れる(ブレンディッドラーニング)ことで教育 効果を格段に向上させることがわかってきた。
eラーニングは、学習者個々の学習履歴、自動採点テスト、非同期ディスカッショ ンやプレゼンテーション等、対面授業では殆ど実現不可能な機能を持つ。これら の機能を、ブレンディッドラーニングとして上手に対面授業に取り入れることで、 教育の効率化、個別指導の充実、教育内容や評価の明確化等が見込まれることか ら、効率的かつ到達度の高い学習が可能となり、学習者、すなわち学生にとって のメリットは大きい。また、学習内容がオンラインで参照可能になることから、 学習をいつでもどこでも継続的に行うこと可能であるだけでなく、その延長線上 に殆どオンラインのみで行う非同期遠隔教育も考え得ることから、社会人教育へ 応用、発展も可能となる。教員にとっては、教育内容のeラーニング化は、コン テンツ制作時の一時的な負荷を伴うが、完成後はプリント配布、テスト採点等の 負荷は減少し、学習者の進捗状況を把握でき、教育自体に集中できることが期待 される。本機構はこの一時的負荷の低減を目的の1つとしている。また、大学と しては、教育内容のデジタルコンテンツ化による資産蓄積、学生の学力向上、学 生個々の学習状況の把握による個別指導の充実、授業内容のオンライン化による 教育内容や評価の透明性の確保等メリットが大きい。例えて言えば、eラーニン グを銀行におけるATM導入や航空会社における航空券のWeb予約等とも類似した、 教育のICT化と見ることもでき、これは時代の必然と思われる。
また、教育内容の公開という意味では、世界的にはオープンコースウェア (OCW7)に代表される授業コンテンツの無料公開、日本でもその流れを汲む日本 OCW8や、ゲートウェイ的なNIME-glad9等がある。これらは、教育内容を明確に公表することで高い宣伝効果をもつが、 実際にそのコンテンツだけでの学習では修得が難しい。eラーニングコンテンツ はいくら効率化しても、現在のところ自学自習のみで修得できるものは殆ど皆無 に等しいと思われ、教員とインストラクショナル・デザイナによる適切な授業設 計、インストラクタ、チュータ、メンタ等の適切な指導があってこそ、その効果 を発揮する。どちらにせよ、このようなコンテンツの公開の社会的要請は今後益々 増大が予想され、そこでの評価は大学の教育内容の評価につながっていく可能性 もある。
さらに、最近特に注目されているものとして、オンラインポートフォリオ 10がある。WebCT等に代表される学習管理システム(LMS: Learning Management System)11等の学習環境は個々の授業単位でしか管理されていないが、それに対して、オン ラインポートフォリオは、学習者の全ての学習状況を記録し、学習者の弱点や伸 ばすべきポイントを与え、進路をも考慮した個別指導を可能にする。それだけで はなく、学生のポートフォリオを学生の就職活動や大学のステータス向上に活用 しようとする例も登場しつつあり、ある例では、学生自身が自分のポートフォリ オをインターネットに公開することで、自分の経験・能力アピールするといった ものもあり、今後、教育内容の保証に加えて卒業生の質保証にまで進展すること も予想される。
このような状況を勘案すると、通常の対面講義にICTを取り入れ、オンライン化 を進めていく必要がある。
また、現在の日本のeラーニングは、現代GP募集、日本OCWの発足、NIME-gladと その世界的連携と急速な展開を見せている。
その中で、熊本大学は、SOSEKI、CALL、情報基礎教育といったeラーニング関連 分野での2年連続の特色GP取得[11,12]、日本初のeラーニング専門 家養成インターネット大学院である大学院社会文化科学研究科教授システム学専 攻の開設、平成18年度現代GP(eラーニング分野)採択、COEによる世界的研究者 養成、NIMEとの包括的連携締結(2007年7月)、熊本大学eラーニング連続セミナー の開催等とeラーニングに関して全国的に注目を集めており、現在、先端を走っ ている機関の一つである。
また、本学学生は1年次に全員が必修科目として、情報基礎をブレンディッドラー ニング形式で1年間履修しており、ほぼ全ての学生がeラーニングシステムを利 用する能力を有しており、学習者側の準備状況は既に万全であるといえる。
熊本大学総合情報基盤センター 中野 裕司 2007年8月16日(木) |